
BMWの「冷却水、水温」に関する警告表示に出会います。
「とりあえず足せばいい」と考えがちですが、冷却水そのものよりも、エア(空気)がどう扱われているかが、トラブルの分かれ道になります。
この記事では、冷却水システムについて、場所や補充といった基本から、世代ごとに異なるエア抜き手順、よくある誤解や失敗例までを、整備現場の実情とトラブル傾向分析を交えながら整理します。
BMWの冷却水(クーラント)の基本
冷却水の役割
冷却水は、エンジン内部で発生した熱を外に逃がすための媒体です。
BMWのエンジンは高効率・高出力を前提に設計されており、冷却性能には常に余裕を持たせていません。
そのため、冷却水量が適正でも、内部に空気が残るだけで、温度制御が一気に不安定になります。
使用するクーラント
BMWでは、専用設計の純正クーラント(一般に青色)が指定されています。
色だけで判断するのは危険ですが、少なくとも「BMW対応」を明記していない市販品を安易に混ぜるのは避けるべきです。
異なる添加剤同士が反応し、スラッジ化する例も実際に報告されています。
冷却水の場所と正しい確認方法
リザーバータンクの位置
冷却水は、エンジンルーム内にある半透明の「リザーバータンク」で確認します。
ボンネットを開け、エンジンを正面から見たとき、左右どちらかに配置されていることがほとんどです。
キャップには冷却水マークや注意表示があり、ウォッシャー液タンクとは明確に区別されています。
液量の確認方法
タンク側面には「MAX / MIN」や「FULL / LOW」といった目盛りがあります。
冷間時に液面がこの範囲内に収まっていれば、量としては問題ありません。
BMWは冷間基準での管理が前提なので、走行直後の確認は意味を持ちません。
警告灯が示す本当の意味
メーターパネルに表示される冷却水警告は、「即オーバーヒート」を意味するものではありません。
多くの場合、センサーが液面低下やエア混入を検知した結果です。
警告が出たからといって慌てる必要はありませんが、無視して走り続ける理由にもなりません。
冷却水補充時の注意点
必ずエンジンが冷えた状態で行う
高温時にキャップを開けると、内部圧力によって冷却水が噴き出す危険があります。
火傷のリスクだけでなく、エアを余計に噛ませてしまう原因にもなります。
キャップの扱い
BMWのキャップは圧力管理部品でもあります。
一気に回さず、圧を逃がしながらゆっくり開けることが基本です。
劣化したキャップが密閉不良を起こし、慢性的な液量低下につながる例もあります。
BMWにおける「エア抜き」という作業の意味
冷却水を補充しただけでは、冷却系内部に空気が残ります。
ラジエーター、ヒーターコア、ウォーターポンプ周辺など、高低差のある経路に空気が溜まりやすい構造だからです。
BMWでは、このエアが原因で「冷却水は入っているのに調子が悪い」という状態が頻発します。
つまり、補充とエア抜きは必ずセットで考える必要があります。
世代別:BMW冷却水エア抜き手順の違い
| 項目 | E系(〜2000年代後半) | F系(2010年代) | G系(2018年〜) |
|---|---|---|---|
| ウォーターポンプ | 機械式(ベルト駆動) | 電動式 | 電動式(高制御) |
| エア抜き方式 | 手動 | 自動 | 自動 |
| ブリードスクリュー | あり | 基本なし | なし |
| エンジン始動 | 必要な場合あり | 不要 | 不要 |
| 作業の難易度 | 整備経験に左右される | 手順理解が重要 | 途中で止めないことが重要 |
E系:人が管理する冷却システム
E系BMWは、ブリードスクリューを使って人がエアを抜く設計です。
泡が出なくなるまでクーラントを注ぎ、目で確認するという、昔ながらの方法が採られています。
その一方で、樹脂製スクリューの破損や締めすぎといった、人為的トラブルも多発しました。
F系:車がエアを抜く時代へ
F系からは電動ウォーターポンプが本格採用され、エア抜きは車両側の制御に委ねられます。
イグニッションON、ヒーター設定、アクセル操作といった一連の手順には意味があります。
音がする、振動があるといった反応に驚いて途中で止めてしまうと、作業は未完了になります。
G系:完全にシステム任せの冷却管理
G系では、冷却管理はほぼECU主導です。
作業者ができることは「正しい状態を作り、最後まで邪魔をしない」ことだけです。
途中でキー操作をしたり、バッテリー電圧が低下すると、エア抜き自体が成立しません。
よくある誤解と実際
- 冷却水が減る=必ず漏れているとは限らない
- 警告灯が出た=即重大故障ではない
- ヒーターが効かない=エア残りの可能性が高い
BMWの冷却系トラブルの多くは、部品不良ではなく、作業理解不足に起因しています。
まとめ:BMWの冷却水管理で本当に大切なこと
BMWの冷却水管理は、「量」ではなく「状態」を見る作業です。
補充したかどうかではなく、エアが完全に抜けているか。
この一点を意識するだけで、ウォーターポンプやサーモスタットといった高額部品の寿命は大きく変わります。
冷却水警告が出たとき、それを単なる消耗と捉えるか、システム全体のサインと捉えるか。
その差が、BMWと長く付き合えるかどうかを分けます。

