BMW 7シリーズ E65のデザイン(バングルバット論争)の成否を分析

7/i7シリーズ
BMファン君
BMファン君

BMW7シリーズ(E65)は、デザイナークリスバングル氏の奇抜デザインが話題になります。日本で馴染みのない「バングルバット」とは何か、E65が本当に失敗だったのか、なぜF01は保守的になったのか、そしてライバルに対してどのような立ち位置に置かれたのかを、当時の市場反応とBMW自身の設計判断を軸に整理します。

広告

E65 7シリーズとは何だったのか

BMW E65は、2001年に登場したBMWのフルモデルチェンジ版7シリーズです。
このモデルは、デザイン責任者であったクリス・バングル体制下で開発され、その今までにない斬新なスタイリングは、それまでのBMW像を意図的に裏切る外観を与えられました。

BMW E65 E66情報(7シリーズ・カタログ)
BMWの4代目7シリーズ(形式E65 E66)関連情報、E65セダン、E66ロングホイールベースのサイズ・スペック・エンジンを整理しました。 735i 740i 750i 745Li 750Li 760Li B7までのラインアップです。

登場直後から賛否は激しく、特にデザインに関しては「BMWらしくない」「違和感が強い」といった声が目立ちました。しかし重要なのは、その評価が一様ではなかった点です。

最初に違和感を持たれたのはフロントだった

当時の一次反応を振り返ると、不満の矛先はまずフロントに向いていました。
眉毛状のウインカー、上下に分割されたように見えるヘッドライト、キドニーグリルとの関係性の変化は、従来のBMWユーザーに強い戸惑いを与えました。

一方、リヤについては「奇抜ではあるが、新しい試みとして理解できる」という評価も少なからず存在していました。
後年ほど、リヤだけが極端に否定されていたわけではありません。

「バングルバット」は後付けで強化された言語だった

現在ではE65といえば「バングルバット」という言葉が半ば定着しています。
しかし、この呼称が広く使われ始めたのは、発売から数年が経過してからです。

この「バングルバット」なる言葉は、日本では馴染みの薄いキーワードです。BMW BLOGでは、その名称で呼ばれているものの、日本での認知度は限りなく低かったと言えます。

リアルタイムでは、フロントとリヤの違和感はセットで語られており、特定の部位だけが象徴的に叩かれていたわけではありませんでした。

メディアにとって、トランクリッドの段差は写真一枚で説明できる分かりやすい特徴でした。
その結果、議論は単純化され、「E65=失敗したリヤデザイン」という物語が後年に固定化されていきます。

トランクリッドの段差は「失敗」だったのか

ここで重要なのは、BMW自身がその要素をどう扱ったかです。
E65のトランクリッド形状は、次のモデル群にも引き継がれていきました。

  • E63/E64:6シリーズ
  • E60:5シリーズ
  • E89:Z4シリーズ

これらの車種にも明確な段差を持つトランクリッドが採用されています。
これは、E65のリヤ処理が「否定された思想」ではなく、BMWのデザイン言語として整理・定着したことを示しています。

E65で特に目立ったのは、車格と全高が大きいフラッグシップであったため、段差が強調されやすかった点です。
つまり固有だったのは思想ではなく、条件だったと言えます。

マイナーチェンジ(LCI)が示したBMWの本音

E65のマイナーチェンジは、BMWの内部評価を読み解く重要な手がかりです。

フロント:事実上の作り直し

ヘッドライト形状は大きく整理され、眉毛的な要素は抑えられ、全体の印象は大きく変化しました。バンパーやグリルも含め、フロントは別物と言っていいレベルの改修です。

リヤ:思想は維持されたまま

一方で、トランクリッドの段差は一切修正されませんでした。
変更点は主にテールランプ意匠に留まり、プレス形状や基本構成はそのままです。

これは、BMWが「修正すべき問題はフロントにあった」と判断した証拠です。
もしリヤが致命的な失敗であれば、形状そのものに手が入っていたはずです。

E65は販売的に成功していた

デザイン論争とは裏腹に、E65は販売面で破綻しておらず、成功していたと言えます。
デザインやiDriveの先進性は、フラッグシップモデルとしての最先端の完成度と存在感を示していました。欧米市場ではSクラスと拮抗し、中国や中東といった新興富裕層市場でも一定の存在感を示しました。

これは、7シリーズの顧客が必ずしも「無難さ」を求めていないことを示しています。
むしろ、強い個性やアクの強さは、所有欲を刺激する重要な要素でした。

F01 7シリーズはなぜ保守化したのか

BMW7シリーズ(F01)は、E65の反動を強く受けて誕生しました。

BMW F01 F02 F04情報(7シリーズのカタログ)
BMファン君BMWの5代目7シリーズとして、F01セダン F02ロングホイールベース F03ハイセキュリティモデル F04アクティブハイブリッド7の歴史やスペックを整理しました。740i 740Li 750Li 760Liのグレードがありま...

フロントは伝統的BMW顔へ回帰し、全体の造形は直線基調で威厳重視。
誰が見ても「高級車」と分かる、安全なデザインです。

これは失敗を避けるための合理的な判断でしたが、同時にフラッグシップとしての挑発性を失う選択でもありました。

ライバルとの比較で見えるF01の立ち位置

車種 強み F01との関係
メルセデス・ベンツ Sクラス(W221) 王道感・ブランド力 象徴性で優位を保たれた
アウディ A8(D4) 新しさ・知的イメージ 先進性の物語を奪われた
BMW 7シリーズ F01 完成度・走り 語りにくい存在感

F01はどの点でも高水準でしたが、
「なぜそれを選ぶのか」という一文で語れる個性が弱く、主役にはなりきれませんでした。

E65とF01が示すフラッグシップの難しさ

E65は嫌われることを恐れず、
フラッグシップとしての役割を強く打ち出しました。
F01は逆に、嫌われないことを重視し、
完成度を優先しました。

どちらも間違いではありません。
しかし、強く記憶されているのはE65であり、
それはフラッグシップに求められる本質が
「正しさ」だけではないことを示しています。

まとめ|E65は失敗作ではなく、役割を果たした異端だった

E65は販売的にも思想的にも破綻していませんでした。
アクの強いデザインは、7シリーズの顧客心理に合致し、BMWのデザイン言語を次世代へ押し出す役割を担いました。

バングルバットは、メディアが後つけした「BMW BLOG」のメディア操作という印象が強いでしょう。

F01はその反動で保守化しましたが、結果としてライバルに物語性を譲る形となりました。

E65とF01を並べて見ることで、フラッグシップにとって本当に難しいのは「正解を出すこと」ではなく、「記憶に残る答えを出すこと」だと分かります。