BMWで販売されているマニュアルトランスミッション車のラインナップは、従来に比べて少なくなりました。
今後、MT車は廃止となるのでしょうか。今後の展望を解説します。
BMWメーカーとしての発言
BMW取締役ウェーバー氏
「おもしろい商品もありますが、正直に言うと、どんどん量が減ってきています。ですから、もう開発しても意味がありません。マニュアルMが欲しいなら、今すぐ買わなきゃダメだよ」
引用:BMWBLOG
というメーカーからの発言がありました。これは、個人的な発言なのか、今後の流れを解説します。
メーカーとしては性能も劣るMT車を売る意味が無い
操る楽しみでもあったマニュアルトランスミッション車は、メーカーのブランド戦略としてもスポーツ車としても欠かせない装備です。
しかし、多段トルコンATやDCT車が、MT車の性能を超えるようになってからは、性能面よりも操作性を楽しむという、趣味性の高いオプションになってしまいました。
さらに、販売シェアも限られ、メーカーとしては販売することのリスクを伴う商品となってしまったのです。この発言は、メーカーとしては当然の結果と言えます。
やはり、ユーザー側が「MT車欲しい」の声を上げるだけでなく、新車販売や中古車の販売に寄与しなければ、長期在庫リスクのお荷物となってしまうのです。
欧州:MT車比率の推移(2022)
- 2015年:90%
- 2017年:78%
- 2019年:75%
- 2020年:60%
- 2021年:40%
- 2022年:32%
欧州ではMT車が好まれるという話は過去のもの
欧州では、MT車が好まれるという話が、以前は当たり前でした。
MTのダイレクトな操作性、走行性やキビキビ感が好まれる傾向だったのです。
コンパクトカーが比較的多い欧州車とAT車のマッチングが悪く遅いイメージが強かったのもMT信仰が強まった理由でした。
しかし、近年のMT車比率の減少率は、驚くほどの減少傾向となっています。
欧州でMT車比率が下がった理由はDCT
PHEV車は、MT車が選べないからという、意味不明の解説サイトもありましたが誤りです。
PHEV車は、欧州比率を下げるほど、劇的に売れていません。
理由は、欧州車において、MTと並んで、安価なエントリーモデルへの標準採用が増加したからです。BMWやメルセデスでもエントリーモデルはDCT車が採用され、安価モデルに採用することのコストや性能メリットが出てきています。
- DCT車のダイレクト・キビキビな走行フィール
- DCT車の利便性
- MT車と変わらない価格設定
- CVTは不人気
- トルコンATは高級車にシフト
世界のMT車比率(2022)
- 南ア:42%
- 南米:36%
- 欧州:32%
- 東南アジア:15%
- 中国:4%
- 日本:2%
- オセアニア:2%
- 北米:1%
- 韓国:0%
アジア、北米市場は、渋滞が激しく、もともとAT車が好まれる傾向です。
それ以外は、価格も安く、故障の対応やダイレクトな操作感のMT車という構図でした。
しかし、欧州市場におけるMT車の比率低下は、他市場にも影響をもたらす可能性があります。
自動運転とMT車の相性が悪い
先進の自動運転とMT車の相性は悪く、MT車の機能や操作を自動化したBMWのSMGを復活することはありません。時代の流れとして、性能面や機能面でMT車は消える運命なのは避けられません。
BMWのトランスミッション
BMWのエンジンは、3/4/6気筒、V8と多彩なエンジンラインナップと排気量を備えています。
製造メーカーも以前は日本のアイシン製も一部で採用されていましたが、近年はZF社製に統一化され、マイルドハイブリットやPHEVとの一体化が進んでいます。さらにZF製ミッションをマグナ社で組み上げるなど、ICE車の製造委託化が進んでいます。
最新のBMWモデルでは、それに組み合わされるトランスミッションも絞られています。
3/4気筒:FF/4WDモデル
- 7速DCT
4気筒:FR/4WDモデル
- 8速AT
4/6気筒:FRモデル
- 8速AT
- 6速MT
V型8気筒:FR/4WDモデル
- 8速AT
48Vマイルドハイブリッドが標準装備となる流れ
トランスミッションと一体化したモーターは、エンジンのスターターモーターを兼ねています。
この仕組みが本線となる場合は、スターターモーターが独立して存在しませんので、MT車が存在できなくなる可能性が高いのです。
BMWのMT車は廃止の方向なのか?:まとめ
欧州でのMT化比率の減少が背景にあります。
しかし、M社製モデルは、スポーツ車のマーケットとして販売台数を増加させています。
ZF製6MTは開発済であり、現行のBMWエンジン向けにMT車が搭載済です。同型のモジュラーエンジンが廃止にならない限り、MTミッションの流用と搭載は可能なのです。
- 4気筒B48エンジン/FR
- 6気筒B58エンジン/FR
ZF製の開発は済んでおり、MTミッション自体の新規開発は不要でしょう。
避けて通れない電動化
今後、欧州CO2規制強化により、純内燃エンジンは厳しい状況となることが避けられません。2025年以降、さらに規制強化が進みます。
48Vマイルドハイブリッド(MHEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)の搭載を必須としなければ、欧州規制をクリアすることが難しくなり、規制未達の車には罰金が科せられます。
MHEV/PHEV車は、トルコンATと一体化したスターターモーターであるため、MTに換装した車ついては、スターターモーターの搭載が別途必要になるのです。
MT車市販のハードルが上がる
- 純内燃車の燃費は悪く、CO2規制強化をクリアするために、CO2規制ペナルティを価格に転嫁する必要がある
- MHEV/PHEV化により、スターターモーターを別途搭載する必要が出てくる
一般論として、ニッチマーケット用のMT市場は無くなりません。また、MT車が無くなる時は、ICEが無くなる時であると思います。
しかし、BMWを含む欧州市場においては、そのハードルが非常に上がることが見込まれます。
現時点、メーカーのMT車廃止発言は、正しい可能性が高いと判断します。MT車の新車購入を検討中の方は、早期の判断をお勧めします。