世界各国の水素実売価格から見た、FCVの現状と今後について。すでに試作車の完成を終えたBMWが、未だに市販化しない動向も含めて解説します。
日本の水素ステーション販売価格(2024)
日本の主要水素ステーションのメーカーは下記の通り。2024年に入り各車一斉値上げです。
大排気量エンジン車を超える燃料高コストとなるため、経済性という観点でユーザーの選択肢から消えました。
- ENEOS:2200円/Kg (大手がこの価格)
- 東京ガス:1760円/kg
- 岩谷:1650円/kg
- 日本エア・リキード:1650円/kg
アメリカ・カリフォルニア州の水素ステーション販売価格(2024)
北米で唯一FCEVスタンドがある州がカリフォルニア州です。撤退店舗も多いとのことです。
- 33.49ドル/kg
- 1ドル150円で換算した場合:4941円/kg
日本でも2024年以降、3~5割増し値上げされたので、価格差は縮小しましたが、それでも3倍はある計算で、ガソリン価格の安い北米ではコストメリットは全くありません。
まさに、コストを度外視した補助金漬けの本質が北米価格から読み取ることが出来ます。
ドイツの水素ステーション販売価格(2024)
再生エネルギーの活用が進むドイツですが、日本の2割増し程度販売価格のようです。
- 最小:12.85ユーロ/kg
- 最大:15.75ユーロ/kg
- 1ユーロ163円で換算した場合:2080円/kgから2567円/kg
日本よりも割高となっている時点で、ガソリンやディーゼルに対するユーザーメリットが無くなっています。欧州はBEVの優先度が高く、マーケティングの観点でFCVが入り込めるメーカー側メリットも全くないという状況になっています。
中国・上海の水素ステーション販売価格(2024)
再生エネルギーの活用が進む中国です。日本の2割引き程度販売価格のようです。
- 65人民元/kg
- 1元215円で換算した場合:1398円/kg
日本に比べて割安感もありますが、現地ガソリンやディーゼルに対して割高です。当然、BEVに対しては全く価格競争力はありません。BEVの優先度が高く、マーケティングの観点でFCVが入り込むようなメーカー側メリットも全くないという状況になっています。
韓国 水素ステーション販売価格(2024)
まるで、値上げ前の日本を参考にしたかのような価格です。日本よりも補助金によるバックアップが機能していると言えます。
- 7.76ドル/kg
- 1ドル150円で換算した場合:1164円/kg
この水準であれば、ガソリンに対して同等程度のコスト水準であると言えます。
日本車が低迷する中で、韓国車も大きな決断を迫られている状況となっています。
BMWの水素自動車、水素燃料電池車の歴史
BMWの水素自動車の取り組みは、日本車よりも早く実施し、撤退も早かったようです。
BMWとトヨタの水素燃料電池の提携も早く、すでに10年以上が経過していますが、一向に市販化されない課題と問題点を含めて、以下に解説しています。
BMWの考える水素市場
世界市場における水素ステーション数は、バッテリーEVスタンドに大きく離されました。
BEVやPHEV車向けの家庭用充電機の設置数と比較すれば、水素市場は、全く相手にならない市場規模となってしまいました。
先行する日本車、韓国車が低迷するFCEV
先行するトヨタMIRAI、ヒョンデNEXが大苦戦し、世界の水素ステーション数も拡大どころか、減少している状況をBMW社も冷静に捉えています。
BMWの全方位戦略
2007年:BMW水素エンジン車登場
BMWは水素エンジン車(ハイドロジェン7)を2007年に市場試験投入し、水素エンジンの実用性と将来性をトヨタよりも前に把握し、その実用性の低さから市場撤退しています。
2009年:BMWハイブリッド車登場
低中速域というよりも、中高速域のアシスト型ハイブリッド車、アクティブハイブリッド車を数多くラインナップ
2012年:BMW i3フル電動車登場
この時期に登場したモデルは数えるほどしかなく、世界トップレベルのBEVと言えます。
2012年:トヨタと提携による水素燃料電池車の協業開始
トヨタから水素タンク、FCスタックという先進技術の技術供与を受けて、試作車の生産開始。
すでに10年以上の経過し、その間にトヨタMIRAIの熟成も進み、BMWとしても即市販化可能な試作車に到達していることは言うまでも有りません。
2015年:BMW PHEV車登場
3気筒、4気筒エンジンをベースとしたPHEV車を数多くラインナップします。
この時期に登場したPHEV車数としても、世界トップレベルと言えます。
水素ステーション価格からBMWのやる気の無さ:まとめ
ユーザーとして水素燃料電池車を所有するデメリットだらけに
- 価格がガソリン価格を遥かに上回り経済性の観点で水素のメリットがゼロ
- 水素ステーション数が増えるどころか減り、利便性のメリットがゼロ
- FCEV車両価格も高く、BEVに比べて購入費・維持費でも劣る結果に
- 水素燃料電池車(FCEV)の下取り価格、中古車販売価格が完全崩壊
メーカー側の雇用維持優先の理論が崩壊
- 内燃エンジン車の雇用を守るため、水素燃料電池車が、その代替策にならないことを世界の自動車メーカーも理解してきた
- BEV同様、メーカーや国策の押し付け理論では、ユーザーがついて来ない実態を理解してきた
- 国策として、多大な税金を投入し、水素インフラの維持、拡大を許さない状況になってきた
- 世界的な世論が、水素に対して補助金漬けとする経済的合理性に理解を示さなくなってきた
- 水素を生成するための大電力をそのまま活用すべきとする認識が高まってきた
BMWのスタンス2024
- 環境団体向け、先進技術のアピール宣伝の効果は絶大である
- 2012年から数台の試作車を製造し、とっく市販化レベルの完成度に到達している
- FCEVの試作車は宣伝にもなる
- 2028年の登場との発表である
- BMWとしては、先行する日本・韓国車の市場動向から市販化メリットが全く無いと判断していると推察される
- トヨタはBMW製FCEV市販化という実績・協力を待ち望んいますが、全く市販化の気配を見せない
- これがBMWの全方位戦略の本質であるという「まとめ」になります