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BMW水素自動車の歴史と未来

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BMファン君
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BMWの水素自動車、燃料電池車(FCV)の歴史(変遷)や試作車、市販車、水素エンジンから水素燃料電池車へ舵を切った今後の動向(課題や展望)について解説します。

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BMWの水素自動車とは

「水素自動車」とは、「水素」をエネルギーとする自動車のことです。
現在、その機能を大きく分類すると下記の2種類が存在します。

  • 水素自動車:ガソリンの代わりに、燃料として水素をエンジンに送り、直接燃焼させる。
    水素エンジン車とも呼ばれます。2000年代のハイドロジェン7が有名です。
  • FCV(燃料電池自動車):燃料電池水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーを使って、モーターを回して走る自動車です。
    水素燃料電池車とも呼ばれます。2010年以降のトヨタとの提携の流れによるFCV化です。

BMWは水素燃料電池車へシフト

  • 2010年以前:水素を直接燃焼させる、既存エンジンベースの水素自動車を中心とした開発
  • 2010年以降:効率面から水素燃料電池車をメインとした開発へ

水素を直接燃焼させる自動車(水素自動車)

ガソリンなどの燃料の代わりに水素を主なエネルギー源として駆動する自動車。
ガソリンエンジンを改良し、直接水素を燃焼させる仕組み。
燃焼により水と少量のNOxが排出されるため、CO2の排出量はゼロ。
BMWにおいて、1978年~2007年は、この方式がメインでしたが、以降の開発は中断しています。2021年、トヨタカローラに水素エンジンを搭載し、レースに参戦しています。

水素自動車のメリット

  1. 既存エンジンを流用し、水素タンク・燃料噴射の追加処理により、比較的低コストで水素自動車を導入可能
  2. ガソリンと水素のどちらかの燃料を切り替えて使うことが可能
  3. 二酸化炭素の排出量がゼロ

水素自動車のデメリット

エネルギー源として内燃機関に水素を使用することは、燃料電池技術よりもはるかに効率が悪く、現在では市販化が見送られているシステムです。
燃料消費量の差は、ガソリン「13.9 L /100キロ」に対して「水素47.6 L / 100キロ」の燃費効率となります。水素スタンドのインフラ未整備の状態は、水素燃料電池車と同様の課題。

BMW社の考える水素の未来

2000年代に水素自動車を試みたものの、7シリーズのE65は試験車両に留まりました。
2010年代より、トヨタとの提携により、水素燃料電池車の技術をBMW車へ展開、試作車まで作成済です。しかし、実際の市販化は2020年代後半とされ、BEV化の進展比べて、非常に遅い流れです。
この状況から、BMW社は、FCV市販化に対して非常に慎重姿勢であることが見て取れます。むしろ環境団体に向けてのアピールレベルとも言えます。

BEVの課題とFCVの展望

BMWAG水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏談(2023/7)
今後、BEV(バッテリー電気自動車)が主力になることは間違いないが、充電器のインフラ整備には課題があるとの見解です。この点に異論がある方は少ないでしょう。

  • BEVとFCEVがそれぞれ500万台までのインフラコストではFCEVの方が高い
  • 1000万台になるとFCEVにBEVが追いつき
  • 1500万台では逆転し、それ以上ではBEVの方が高くなくなる。

トヨタMIRAIの販売台数や水素スタンドインフラが、発売後10年を経過後も低迷しています。今後、FCVがBEVを追い越すのは、無謀とも言えるでしょう。

燃料電池を用いて発電する自動車(水素燃料電池車)

FCV(燃料電池車)は、FCVは車の中で発電をしながらモーターを回して走ります。燃料電池車(FCV)の発電装置をスタックと呼びます。FCVは専用のタンクに圧縮した水素を補給します。水素と酸素が化学反応を起こすと、電気と水が発生します。これは理科の時間で習った水の電気分解の逆の化学反応です。ここで生まれた電気はFCVのモーターを駆動させるエネルギー源となり、排出されるのは有害物質を含まない水のみとなります。このようにFCVは走行時においてCO2をはじめとする排出ガスを一切発生させないことから、究極のエコカーであると世界中から注目を集めています。
トヨタ、現代、ホンダ、ゼネラルモーターズ、ダイムラーAGなどが、採用しています。
BMWは、2013年以降、水素燃料電池方式を採用した対応がメインです。

水素燃料電池車のメリット

  • 大気汚染の原因である「二酸化炭素」「窒素酸化物」「一酸化炭素」「浮遊粒子状物質(PM)」「炭化水素」「アルデヒド」「ベンゼル」は排出されません。
  • 化学反応による発電により、ガソリン車よりもエネルギー効率が高い
  • 従来のエンジンを用いないため、EV車の騒音と同等レベル

水素燃料電池車のデメリット

水素スタンドが圧倒的に少なく、トヨタMIRAI二代目を以ってしても普及スピードに大きな課題。
水素スタンドのインフラ整備がEVスタンドに比べて圧倒的に遅れており、車両価格もEV車に比べて高価であり、普及の課題となっています。

BMWでも過去に水素エンジンでの挫折した経験から、水素普及に向けて課題、問題点の認識はあるようです。トラックなどの大型貨物で水素の普及が進めば、インフラやコストの問題を解決できると予想する経済誌もありますが、実際の見通しは厳しいようです。

  • 水素を製造する過程で、大量の電力を使用する点
    そのまま電力を利用するBEVのコストが安い
  • 超高圧700気圧の水素タンクやインフラの寿命が短い点
    (バッテリー寿命や再生コストよりも水素インフラ維持コストの方が高いことが判明)
  • 超高圧700気圧のスタンドインフラ、水素充填時の圧縮・冷却に大量の電力を使用する点
    (その電力だけで300km走行できるだけの電力)
  • 結局、電力をそのまま蓄電し、利用するBEVに対するメリットは充填時間のみ。
    (基本、家充電前提のBEVと比べることが意味が無い)

BMW水素エンジンの歴史

水素自動車の研究に着手:1978年

BMW 5シリーズ(E12)型をベースに研究開発が行われ、170万kmの走行実績を造り、同社の成功と水素自動車の可能性を立証。

BMW750hL(E38)の試作車:2000年

Expo2000万国博覧会(ドイツのハノーバー)において、
BMW は自動車会社として世界で初めて水素自動車のフリート走行を実施。
水素自動車は実用的テスト条件下で水素駆動の長所を実証。
「BMWクリーンエネルギーワールドツアー2001」の一環で、日本でもデモ走行を実施。

  • BMW 750iL(E38)ベース
  • 燃料タンク「液化水素燃料タンク140L、ガソリン95L」を搭載
  • 水素、ガソリン両用V型12気筒5.4Lエンジン
  • 航続距離は350km(水素)
  • バイフューエルとして、水素燃料が切れた場合にはガソリン走行も可
  • 水素燃料使用時:最高出力204馬力、最高速度は225km/h
  • ガソリン使用時:最高出力326馬力

水素エンジン速度記録車H2R:2004年

2004年9月に速度記録挑戦を行い,9つのFIA公認速度記録を達成

  • V12 6.0リッターエンジンBMW 760iベース
  • バルブトロニックとW-VANOS
  • 0-100km加速:6,0sec
  • 最高時速:300.175 km/h

BMWハイドロジェン7(E65):2005年

BMWハイドロジェン7とは

2005年から2007年まで製造した水素内燃機関車で、生産限定の水素内燃機関車です。
BMW7シリーズ 760Li(E65)をベース。
水素やガソリンの燃焼も可能に変更され、BMW製の水素利用は、内燃機関のエンジンにおいて、水素を燃料として、燃やす方式です。

  • 6.0リッターV12エンジン搭載
  • 最高出力;260PS
  • 0-100km加速:9.5秒
  • 水素燃料タンク:170リットル(700気圧)
  • ガソリン燃料タンク:73.8L
  • 巡航速度で合計640キロメートル

BMW水素燃料電池車の歴史

トヨタとBMWの提携:2013年

FCV(燃料電池車)における仕組みや特許は、トヨタやホンダといった日本勢が開発・実用化で先行しています。BMWはトヨタと2013年に燃料電池分野などで提携関係を構築してます。
トヨタとBMW提携により、トヨタ技術をベースとした、FCV開発の基礎となっています。

BMW i8 Hydrogen NEXT:2015年

BMW i8ベースの水素燃料電池車。トヨタ自動車の水素スタックを用いて、BMWと共同で開発された「i Hydrogen NEXT」

  • 350気圧の水素タンク
  • 総システム電力は268bhp

BMWグランツーリスモ(F07)試作車:2015年

2015年に開発中の燃料電池車(FCV)。2017年には日本でも公開。
BMW5シリーズ・グランツーリスモ(F07)をベースとし、ドイツでの実テスト車両になります。
外観は、ほぼノーマルの5シリーズ・グランツーリスモベース

  • 内装もベースモデルとほぼ同等の機能を備えます。
  • 水素タンク搭載の影響で5人乗りから4人乗りへ変更
  • 重量軽減のためルーフなどを軽量なカーボン製へ
  • 最高出力150kW/200ps
  • 0-100km/h加速が8.4秒
  • 最高速度が180km/h

発電に必要なFCスタックは、トヨタ製

BMWとトヨタの提携による技術供与。

EV関連と水素タンクは、BMW製

  • 700barのCGH2(圧縮水素)連続航続距離:450km
  • 350barのCcH2(極低温圧縮水素)連続航続距離:700km

水素の充填効率により、航続距離が異なる2システムを並行開発中。

BMW iハイドロジェンNEXT(G05):2022年

BMWの第5世代のEVパワートレイン「eDrive」を搭載したX5シリーズ(G05前期型)ベース。
エンジンの代わりにBMW iハイドロジェンNEXTの燃料電池システムを搭載。
燃料電池の下にレイアウトされる電気コンバーターは、電圧レベルを電動パワートレイン、ブレーキエネルギー、燃料電池からのエネルギーによって供給されるバッテリーの両方の電圧レベルに適合させる。

  • 燃料電池システム:最大170hpの電気エネルギーを発生
  • 電気モーターの最大出力:295kW(401PS)
  • 0-100km/h加速:6秒
  • 最高速度:185km/h
  • 一充填走行距離:504km
  • 水素消費率:119km/kg(WLTC)

水素タンク2本を搭載

  • 700バールの水素タンク2個が搭載(最大6kgの水素を搭載。水素の充填時間は3~4分)
  • トヨタMIRAI」水素タンク3本に対して、2本搭載の性能

iX5ハイドロジェン試作車

このプロジェクトにはドイツ政府が資金を一部拠出している点がポイントで、同社の水素部門を率いるユルゲン・グルドナー副社長は、22年末に100台近くの試作車を製造し、一般に販売されることはないが、米国、日本、欧州、中国、韓国でテストを実施。
2023年、4年間に渡るiX5のテストは終了したとのこと。

BMW『iX5ハイドロジェン』市販車:2023年

  • 2022/12/2:燃料電池パワートレインを搭載するSUVについて、ドイツ・ミュンヘン工場で生産開始。2023年春から、世界の一部地域の顧客へデリバリー開始予定。
  • 2023/7/13:英国のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2023」に出展すると発表
  • 2023/7/25:日本における実証実験を2023年末まで行なうと発表。
    BMW GROUP TOKYO BAY(東京都江東区青海)でiX5 ハイドロジェンの車両展示を行なうとともに、BMWグループ水素燃料電池テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏、iX5ハイドロジェン・プロジェクト・マネージャーのロバート・ハラス氏を招いてのプレスカンファレンスを開催。
  • 2023/11:JMSショーにて、iX5ハイドロジェンを展示。出品車両の外観は、前期型X5(G05)となり、やや古さを隠せない状況でした。

BMW水素燃料電池車のまとめ

水素エンジン車は、その効率性の悪さからBMWハイドロジェン7の試験車両に中止する判断を行い、BMWは、その実現性については、見切りを付けました。
現在は、水素燃料電池車にシフトしています。

2010年以降の流れ

  • 燃焼効率的に水素エンジンよりも燃料電池のほうが効率が良く、航続距離も長くなる。
  • iX5は燃料電池の補助的役割として駆動用バッテリーも積み、電費はさらに稼げます。
  • 2度と水素エンジンの開発はやらないと断言していない。
  • 総合的観点から燃料電池のほうが良いと判断した。
  • 2015年時点、トヨタMIRAIで使用している信頼性のあるFCVスタックを利用したBMWの燃料電池車の試験車両が完成

2015年から2023年の間、市販化を踏み留まる

トヨタMIRAIの市販車ベースのスタックを利用し、信頼性の点でも、即市販可能な試験車両が完成し、テストも終了しています。

欧州市場でも、日本車や韓国車の水素燃料電池車は、すでに市販化を実施済です。
しかし、BMW製FCEVの市販化は非常に遅いようです。メディア向けのニュースと実際の市販化には、かなりの温度差があることが見て取れます。
環境面でも技術的アピールでもFCEV市販車を積極投入すべきなのですが、BMWが何からの理由で、積極的にFCEVの市販化を進めない理由があるのかもしれません。