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BMWがトヨタ製ハイブリッドを不要とした理由

BMW総合情報
BMファン君
BMファン君

2013年にBMWとトヨタが提携により、トヨタ製ハイブリッドをBMWに搭載するとの予想は外れました。BMWがTHSを採用しなかった理由を解説します。

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提携時のBMW製は電動化技術とは

BMWのBEVやPHV車情報(i/iXシリーズ)歴史と戦略
BMWの電動化戦略とは?。今後、内燃エンジンを廃止し、電動化に向けての施策を整理しました。BMW電気自動車やハイブリッド車のラインナップや歴史・スペックや充電プラグ規格について解説します。
  • 1997-2003年:初代トヨタプリウス
  • 2003-2009年:二代目トヨタプリウス
  • 2009年:BMWアクティブハイブリッド車が続々登場
  • 2013年:BMW i3(フルバッテリーEV、レンジエクステンダー)

日本と欧米の燃費測定方法には差があった

過去の日本では、10-15モード、JC08という低中速度域に特化した日本独特の燃費計測方法であり、日常用途の実燃費を表した燃費ではありませんでした。
一方、欧州では130km/hを超えるアウトバーン高速走行を燃費計測(現在のWLTP、エクストラハイモード)を重視しており、測定方法に大きな乖離があり、世界基準のWLTP/WLTCに日本も準拠した流れとなります。
当時、1.5Lの燃費重視型のアトキンソンサイクルNAエンジンのプリウスは高速走行に耐えられるレベルになく、パワー不足を補うため、三代目プリウスは排気量を1.8Lに拡大します。
五代目プリウスは排気量2.0Lに拡大し、燃費向上とは逆行する排気量の拡大アップサイジングを実施する結果になったことは、世界基準としてのパワー不足指摘の表れです。

中高速域で使い物にならない日本製HV

当時、80km/h以下の低速走行では、絶大な燃費効果を実現するものの、加速性能などに不満が残り、欧州市場向けハイブリッドとして、採用するメリットが無かったことが挙げられます。
BMWとしては、アウトバーンの高速性能を満たさない、低速域の特化型ハイブリッドに魅力は無かったのです。

ダウンサイジングターボに対して、HVの優位性が少なかった

2000年代に入り、欧州製ガソリン、ディーゼルエンジンは、排気量の大幅なダウンサイジングを実施しました。(BMWでいう、EfficientDynamics(エフィシエント・ダイナミクス)化)

  • 排気量のサイズダウンによる軽量化
  • 排気量のサイズダウンによる燃費向上
  • 直噴ターボ化により、低中速域のパワー・トルクアップ
  • ATの多段化による燃費・加速性能の向上
  • 中高速域の燃費、ドライバビリティはダウンサイジングターボに軍配

一方、2代目プリウスは低速域での絶大な燃費効果を示したものの、中高速域が主体の欧州市場においては、トータル性能でのデメリットも目立ち、欧州製ダウンサイジングターボに対しての優位性が保てなかったのが実態です。

BMWのアクティブハイブリッドで中高速域の制御を把握

国内メディアでは、欧州ではハイブリッド技術に出遅れ、BEV化を推進した、「トヨタ外し」という話が多いのです。しかし、BMWがトヨタと提携しており、実態として全く正しくありません。

2010年代、欧州が先行した技術

  • 排気量のダウンサイジング化
  • 多段AT化
  • 直噴ターボ化
  • 2013年:BMW i3(純BEVの市販化)

上記の3点を一般大衆車の全車に拡大し、NAエンジンが市販車から早々に消えたのは欧州車が早いです。
排気量ダウンサイジングにより、明確に低燃費が実現され、ターボにより中高速域のパワー不足を補う点では、欧州市場の道路事情に見合った内容であったと言えます。
ハイブリッド車を推進したことで、ダウンサイジングターボ化が遅れ、2020年代中盤でも、NA5リッターV8エンジンを製造するトヨタとは大きな差があります。

2010年代前半、BMW製ハイブリッド技術

モデル システム構成 モーター構成
ActiveHybrid 7 マイルドハイブリッド 1モーター:20PS
ActiveHybrid X6 2モード・アクティブハイブリッド 1モーター:91PS
1モーター:86PS(遊星歯車装置)
ActiveHybrid 5 パラレルハイブリッドシステム 1モーター:55PS
2クラッチシステム

4.4LのV8ターボや3.0Lの直6ターボと組み合わせたため、燃費面のメリットよりもパワーアシスト型ハイブリッドとして市販化されました。

システム構成としても、マイルドハイブリッド、2モード、パラレルハイブリッドなど、複数技術による市販化を実施しており、ハイブリッド技術としてのメリデメを習得しているのです。

トヨタ製THSの圧倒性能

エンジン駆動、モーター駆動、モーター発電、コースティングを最適なバランスでパラレルで制御する点では、他の自動車メーカーの追従を許さないシステムです。

遊星歯車を用いる動力分割機構を備え、発電用モーターと駆動用モーターのふたつの電動機を制御する変速システムとなっている点がポイントです。

トヨタ製THSのデメリット

エンジン、モーターを効率良く駆動させ、最低限のエネルギーで速度を維持し、燃費を向上させる点に特化したシステムがTHSです。組み合わされるエンジンも燃費優先のNAエンジンであり、パワー志向型ではありません。結果、走りやパワーの点で物足りないという不満が出てきました。

BMWの判断

BMW自社製のハイブリッドシステムを複数市販化し、ハイブリッド性能面でのメリデメ、特徴は2010年代前半に見切っていたと言えます。高速走行域の燃費性能では、欧州車が得意なダウンサイジングディーゼルターボと多段ATが、十分なパワートルク、燃費性能を発揮していたことも、THS採用に至らなかった理由です。

トヨタ製THSは欧州市場が求めた性能では無かった

2010年代前半の燃費性能としては、突出したものがあったトヨタ製THSです。

しかし、欧州市場の一般大衆車では、マニュアルトランスミッション比率やDCT比率が高く、CVTが好まれない欧州市場では、渋滞地域の燃費向上に特化したTHSの走行フィールは好まれず、むしろパワー不足がデメリットとして強調される結果となりました。

BMWはトヨタとの提携でTHSに魅力を全く感じなかった

前述の通り、BMWはアクティブハイブリッドの市販化により、複数のハイブリッドパターンを試し、欧州市場におけるハイブリッド技術の適正パターンを見切っていたと言えます。

近年のハイブリッド技術トレンド

  • 2009年~:BMW製アクティブハイブリッド車による、複数ハイブリッド技術のチャレンジ
  • 2015年~:BMW製プラグインハイブリッド車
    (モーター+ZF製8AT)
  • 2022年~:BMW製インテグレーテッドスターターモーター車
    (マイルドハイブリッド+ZF製8AT)
  • 2022年~:トヨタ2.4L直噴ターボエンジンT24A-FTS型
    (モーター+アイシン製6DCT)

エンジンとATの同軸上にモーターを配置するハイブリッドシステムです。
結局のところ、エンジンとモーター、多段ATとの組み合わせを突き詰めれば、システムは似たよう仕組みに落ち着くというところでしょうか。
レクサスLS600hなど大排気量エンジンでも鍛えたトヨタ製THSを捨てて、他メーカーが採用するようなハイブリッドシステムを採用したことが、技術的な限界点の表れです。

トヨタ2.4L直噴ターボエンジンT24A-FTSのデメリット

トヨタ製の最新型パワー重視型ハイブリッドシステムのデメリットとは

  • せっかくのTHSを採用せず、他メーカーと同じシステムを採用
  • 結局、欧州メーカー採用のハイブリッドシステムと同じ結果
  • 8速トルコンATから、コンパクト化という名の、6速DCTへの大幅劣化
  • DCTを採用することによる、シフトショック増大
  • 高級車らしからぬシフトショック増大にも関わらず、レクサスやトヨタ上級車へ搭載

高級車レクサスに対して、10速AT搭載車を持つなど変速ショック軽減や加速性能重視であったトヨタですが、6速DCTという変数段数の削減とトルコンからDCTへの劣化は、トヨタが行うべき技術の結果なのか、疑問に残ります。(BMWやメルセデスで言えば、トルコンが高級車、DCTはエントリーモデルの位置付け)
THSをパワー志向型に進化させることが出来ず、結局THSは渋滞特化型のハイブリッドシステムという結論になります。

BMWがトヨタ製ハイブリッドを不要とした理由:まとめ

トヨタとの提携により、容易にTHS技術を供与できる環境が整っていたのです。マツダアクセラにTHSを搭載したように、BMW製エンジンにTHSを統合させることは技術的にも可能でした。
FCEVではトヨタ製システムを全面採用したように、技術・性能・ブランド的メリットがあれば、トヨタ提携メリットを優先したTHS採用を行った事でしょう。
しかし、BMW社は、トヨタ製THSの採用を実施しませんでした。

THSを不要とした理由

  • 当時すでに、BMWアクティブハイブリッド車により、欧州市場向けのハイブリッド車の実用化市販化により、トヨタ製THSの欠点(中高速域のパワー不足)を見切っていた
  • BMWやミニのブランディングにおいて、THSという低中速域に特化したハイブリッドシステムが、当時の「駆け抜ける喜び」を満たす魅力は無かった
  • BMW i3(BEV)、i8(HEV)の市販化により、過渡期としてTHSを採用するよりも、今後の電動化技術としては、自社で開発中のMHEV/PHEV/BEVが合理的であることを見切っていた

トヨタからBMWへの技術供与

水素燃料電池車(FCEV)など、MIRAIに搭載された技術(水素スタック)がBMW製のFCEV試作車に取り込まれています。
しかし、欧州市場がFCEVに乗り気でなくBEV優先であるため、市販化は先の話となっています。
同様に、リチウム空気電池の共同開発について、実用化の可能性に陰りが見えているようです。

BMWからトヨタへの技術供与

BMW Z4(G29型)のシャーシ、エンジン、トランスミッション、iDriveなどの電装系装備一式がBMW製のまま技術供与を受けたものがトヨタ・スープラです。
国内メディアでは、共同開発したかのような内容も見られますますが、Z4そのものです。
BMW製のZ4車体に対して、トヨタ製のコンピュータ診断機に接続できるようなエミュレータ操作が可能となっているのが、スープラの実態です。

BMWとトヨタの提携は実質スープラのみ

THS技術は不要、FCEVは試作車に留まった状況、リチウム空気電池は実験レベルであり、実質の提携効果はスープラのみという結果が現在です。
欧州車は日本製ハイブリッドを潰すために、電動化を進めたという日本メディア記事が多いのですが、欧州メーカーが単に低中速域ハイブリッドに注力しなかっただけと言えます。

T24A-FTSがトヨタ製最新ハイブリッドなら性能劣化

特許無料開放のTHSに対して、海外メーカーは見向きもしませんでした。
近年、6速DCTへ変速ギヤ数を減らしたトヨタ製ハイブリッドを出す状況です。
このレベルでは、他メーカー製ハイブリッドシステムとの技術的な差が無くなったことを示しています。

THSの供与を受けず、ZF製マイルドハイブリッド、ZF製PHEV、BMW製BEVでも販売台数をのばしているBMWグループにとって、それは正解だったという「まとめ」になります。