BMWの合成燃料(eフューエル)対応として、ドイツ国内で製造するディーゼル車に工場出荷時の燃料として「HVO100」バイオ燃料を充填する方針です。今後のe-fuelの流れを解説します。
合成燃料(e-fuel・eフューエル)とは
- 再生可能エネルギー由来の水素と大気中の二酸化炭素(CO2)を合成して製造される人工的な燃料。
- 石油と同じ炭化水素化合物の集合体で、ガソリンや灯油など、用途に合わせて自由に利用可。
2035年以降、欧州認可エンジン車はe-fuel対応車のみとするルール
- 欧州では、2035年以降、内燃エンジン車が販売できない規制がEU域内で合意
- e-fuel対応車のみ、内燃エンジン車の販売が可となっている
- e-fuelは、厳しいルールとなっており、この点が後述する問題となっています
HVO100とは
- 「Hydrotreated Vegetable Oil」の略で、「水素化処理された植物油」を意味
- 軽油の代わりにディーゼルエンジンで燃焼できる再生可能燃料
- 「FAME」など従来のバイオディーゼルとは異なり、エンジン側の改修が不要な燃料
- 「100」は軽油と混合しない100%の純粋なHVOを指す
BMW工場での利用
2025年よりドイツ国内で製造するディーゼル車に工場出荷時の燃料として「HVO100」バイオ燃料を充填することを発表。採用するのはネステ社のリニューアブル・ディーゼルで、BMWの工場物流用のトラックでは既に実績がある再生可能燃料となります。
HVO製造
フィンランドに本社を置くネステ社の「ネステMYリニューアブル・ディーゼル」
BMWのHVO100利用工場
- ミュンヘン
- ディンゴルフィング
- レーゲンスブルク
- ライプツィヒ
上記4工場では、BMWグループのディーゼル車の50%以上を製造
「eフューエル・アライアンス」への加盟
- 環境対応の合成燃料を確立・普及させ、世界中で使用されることを目標に掲げる
- 2021年に設立された団体
- 石油、自動車および自動車部品、機械、プラントエンジニアリング、航空、海運、化学、エネルギーなど業界より参画(BMW社も加盟)
- 欧州および北米の企業・団体を中心に、現在17ヵ国、約180社が加盟(2023/11)
e-fuelを取り巻く欧州動向
HVO100などの利用は一部に限られる
欧州では、バッテリーEVを推進している立場であるため、内燃エンジン車の延命策であるe-fuelに積極的でないため、普及は非常に限定した範囲の留まっています。
HVO100は、CO2削減に寄与していることは事実なのですが、HVO100の製造方法は、欧州委員会で定めた厳格な公式e-fuelのルールには適合していません。
BMW CEOが現状の欧州委員会を批判
2035年までに欧州連合で内燃エンジン車(ICE)の販売を禁止する法案について、合成燃料「eフューエル」使用のICE車を例外として認める計画に実体性がないとして、欧州委員会を批判しています。
計画に実体性がない理由とは
欧州委員会が定めたルールは厳格な製造方法となっており、内燃エンジン延命に向けた回避策・技術としては、ハードルが高すぎる状況のようです。
100%再生可能エネルギーを用いた生産に限定する
eフューエルの製造にあたっては、100%再生可能エネルギーによるものという制限事項があるためです。現在のHVO100では、その製造工程においては、100%再生可能エネルギーでは製造されていない点がポイントです。
100%再生可能エネルギーによるe-fuel製造プラントが、まだ一部でしか稼働しておらず、その実現性に向けたハードルが高いのです。
- 水と空気と100%再生可能エネルギーにより、水素(H2)を生成
- 水素生成は、大量の電力が必要となり、そのまま電力を利活用した方が効率的とされる
- 大気中のCO2(二酸化炭素)を取り込むことが必須(DAC技術によるもの)
- 工場などから排出されるCO2の利用は認めない
- バイオ燃料や化石燃料は認めない
認定e-fuel車として販売したもの以外は認めない
100%再生可能エネルギーにより生産したe-fuelについて、その認定e-fuel燃料のみでしか走れない車を新たに販売することで、e-fuel車の販売を認める制限事項です。
なぜ、このような厳しいルールにしているかというと、既存ガソリンを使えてしまえば、認定e-fuel車として、許可する意味が無くなってしまうからです。
2035年の認定e-fuel車は、以下のルール達成が求められる
- 2035年以降、e-fuel認定車の仕様
- 認定e-fuelとして規定のルールにより、製造した認定e-fuel燃料のみ使える、認定e-fuelエンジン車を販売することが出来る
- この仕組みをクリアするため、認定e-fuel車を販売・利用するための相互認証システムが必要
- 認定e-fuel車は、既存のガソリンを利用できない仕組みを組み込む必要がある。
(この仕組みがないと、既存ガソリン車と何ら変わらず、法的拘束力が機能しないため)
BMWのe-Fuelの取り組みと今後の動向:まとめ
- BMW社における「HVO100」の利用拡大の取り組みは、今後の規制強化に対応できていない
- 欧州委員会は、100%電動化を優先したため、認定e-fuelの許可ルールは、非常に厳しいルールとしてしまった
- 認定e-fuelの製造販売に向けた準備は全くできていない
欧州全メーカーが厳しい状況に立たされている
VWやメルセデス、ボルボの電動化計画がとん挫し、販売計画の見直しを実施する中で、2030年、2035年のCO2規制強化および、e-fuelのルールが立ちはだかっています。
BMW一社だけでは、この状況を打破できない
欧州域の合意事項として取りまとめた欧州委員会の規制ルールを見直し、内燃エンジンの延命に向けて、根本的なルールを見直しする必要性に迫られています。
現状のままでは、ストロングハイブリッド車ですら規制をクリア出来ない状況となります。
少なくともHVO100レベルの広義の代替燃料を認可するなど、現実的なCO2削減策が求められるでしょう。